長期間の別居はどれくらいですか。
法律相談において,ある程度の別居期間が必要になる,といわれることがあります。
有責配偶者の場合はともかく一般の場合はどれくらいか,ということには,弁護士によってばらつきがあるといわれています。
というのも,婚姻期間に別居期間も比例するので単純に3年や5年といったフレームワークを示すことができないからとなります。
別居の時期については,要綱(案)では,5年以上とされているものもあれば,3年以上としているものもあります。
そうすると,実務上は,3,4年の別居の経過を基本原則として,事情として,別居期間3年プラスマイナス1年とする案も提案されています。
別居期間が3年数か月という場合は,他の類型的な破綻事由と組み合わせて主張になると考えられます。具体的には,別居期間を基礎に,性格の不一致,暴行虐待,夫婦不和などを横軸にして
総合的に判断するとの見解もあるようです。また,家事調停をきちんと経ていることも事情となります。調停は訴訟の通過点ですが,充実したものであれば修復可能性を否定する事実となるからです。したがって,話し合いの場といっても調停が充実したものであれば,修復の見込みがないことを否定する事情になるものと考えられます。
長期間の別居や離婚について同意があり,その他の論点について争いがある場合などは,有責性を問題としないということで紛争の激化を招かない,という点があります。
以下に紹介するように,別居期間は婚姻関係修復の試みが客観的に不可能であると思わせる別居期間である必要があります。
すなわち,相手方に別居状態を解消する手段を与えられていることが必要ともいわれています。
手段を尽くしても,婚姻関係が修復されない状態に初めて,相手方の意思に反してでも婚姻関係を解消することができると考えられます。
名古屋高裁平成20年4月8日判決
当裁判所は,原判決と異なり,控訴人と被控訴人の婚姻関係はいまだ破綻しておらず,婚姻を継続し難い重大な事由があるとは認められないから,被控訴人の控訴人に対する本訴離婚請求は理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。
2(1) 別居期間
以上認定の事実によれば,被控訴人が平成16年×月×日に離婚調停の申立てをして以来約3年3か月間(当審における口頭弁論終結日まで),控訴人と被控訴人は,別居状態にあり,調停や訴訟の機会を除くとほとんど話し合いの場を持つことができないこと,被控訴人が,婚姻関係を修復する意欲を相当程度失っており,離婚の意思を強くしていることが認められる。
(2) 控訴人の修復の強い意欲
しかし,それにもかかわらず,控訴人は,婚姻関係の修復に強い意欲を有していることは前記認定のとおりである。
控訴人は,△△県△△市での当事者夫婦だけを中心とし,被控訴人の母との接触が少なかったころの婚姻生活が円満なものであったことから,今一度,環境を整え,夫婦,親子三人で同じような生活をしたいという強い希望を有していることが窺える。控訴人は,△△市居住当時と現在の生活の違いをもたらしているのは,主に被控訴人の母の存在であるとの思いを抱き,同人の影響を受けない環境を確保できれば,控訴人及び被控訴人は,かつてのような円満な婚姻関係を取り戻すことができるはずであるとの気持ちが強い。
また,控訴人は,被控訴人の職場の所在地が被控訴人の実家に近いことから上記のような環境整備をすることが現実には困難であることも踏まえ,被控訴人の実家近くで生活するとしても,控訴人自身が気持ちを強く持ち,これまでは被控訴人の母から言われることは無理難題であっても従ってきたが,これからは被控訴人の母に憎まれることを恐れず,被控訴人の母にも言いたいことを言うなどしてストレスを貯めないようにしたい旨の意向を示している(乙2,3,原審の被控訴人本人)。
そして,控訴人は,△△県△△市に居住していたころの婚姻生活や控訴人の良き理解者であった被控訴人の態度を顧みれば,被控訴人の母の存在が被控訴人の態度や判断に影響を与えており,それを直すことができれば婚姻関係を修復することができるとの考えを抱いている(乙2,3)。
控訴人のこの思いの強さは,被控訴人が離婚調停を申し立てた後の平成17年×月に控訴人自身の実家からあえて○○市の居宅へ戻り,控訴人と婚姻関係修復の方向での話し合いの機会を持とうとしたことからも窺える。
(3) 以上のような控訴人の認識については,前記認定のうつ病の影響もあって客観的な事実認識に支障が生じ,被控訴人の母の言動に過剰な反応をしている面があり,客観性を欠くものではないかが懸念される。
ただし,控訴人は,現在もうつ病の治療のために通院をし投薬治療やカウンセリングを受けており,控訴人のうつ病は,今後改善,治癒する可能性がある。また,被控訴人は,医師からうつ病を根本的に治すために夫婦カウンセリングを受けることを勧められており,夫である被控訴人も夫婦関係や嫁姑関係等について医師のカウンセリングを受け,控訴人のうつ病についての認識理解を深めることで,控訴人に対する治療効果の増進も期待できるのみならず,これにより,控訴人及び被控訴人双方の嫁姑関係,夫婦関係,親子関係に対する認識の齟齬がかなりの程度解消する可能性もある。
そもそも,被控訴人と控訴人は,婚姻前の平成12年秋ころから同居し,円満な同棲関係から長男Cの出生を機に婚姻したものであって,相当期間円満な同居生活・婚姻生活を送ってきた夫婦であり,被控訴人は,平成16年×月に控訴人から○○市の居宅ヘ帰りたくない旨を言われるまでは,控訴人との別居や離婚を考えたことはなく,控訴人の言動に離婚や別居を考えるほどの大きな不満は感じてはいなかったものであることを想起する必要がある。
被控訴人が控訴人との離婚を考えるようになったのは,平成16年×月に控訴人が帰省先の控訴人の実家から○○市の居宅に帰りたくない旨を言い出した後,同年×月に被控訴人が帰宅するよう控訴人を説得するために控訴人の実家に赴き,控訴人と話し合いをしたころであり,被控訴人は,これらの話し合いの中での控訴人の言動に嫌気がさしたり不信感を感じるようになって離婚を決意するに至ったものであるが,上記の時期は,控訴人がうつ病に罹患しながら,いまだ治療を受けていないか,あるいは治療が開始したばかりのころであって,上記の時期における控訴人の被控訴人に対する感情的,攻撃的な言動は,うつ病の影響を受けたものでもあったと考えられる。
また,控訴人は,治療により平成16年当時よりは症状が軽快しているとはいえ,現在もうつ病の治療中であり,現時点の被控訴人の母との関係等についての事実認識や言動も,うつ病の影響を受けている可能性が少なからず窺える。そうすると,控訴人のうつ病が治癒すれば,控訴人と被控訴人の関係や控訴人と被控訴人の親族との関係も改善し,婚姻関係は円満に修復する可能性もなおあるのではないかと考えられる。
(4) (3)のように修復可能性に期待するには,もちろん被控訴人に無理を強いる面があることは否定し難い。
前記のような感情的で反発的な控訴人の態度に,被控訴人が疲れ果て嫌気がさし,控訴人とこの先認識の食い違いを抱えたまま一緒に生活していくことは困難であると考えることは,その心情としては理解できないところではない。
ただ,これをそのまま是認するのは,いささか躊躇を覚えるのである。
というのも,被控訴人は,控訴人からうつ病に罹患している旨を聞かされていながらこの治療に協力したりその治癒を待つことなく,平成16年×月に事実上の別居状態が開始してから4か月程しか経たない同年×月に早くも離婚調停を申し立て,平成17年×月に□□県の控訴人の実家から○○市の居宅に戻ってきた控訴人と正面から向き合わずに,同居や婚姻関係の修復を拒絶して,被控訴人の実家で生活をするようになり,同所から歩いてわずか15分の距離にある○○市の居宅に居住する長男に会いに行くこともせず,現在まで控訴人らとの交流は避けているのであり,これはいささか感情に流された行動のように思われる。
そして,被控訴人が離婚を考える原因となった控訴人の言動は,うつ病の影響を受けたものである可能性があるのであるから,控訴人の治癒を待ち,控訴人の病気の影響を取り除いた状態で,被控訴人に,控訴人及び長男Cとの今後の家族関係,婚姻関係に向き合う機会を持たせることが相当であると考えられる。
(5) 婚姻破綻の有無
上記の(1)から(4)を総合すると,次のとおりにいうことができる。
すなわち,控訴人と被控訴人の交流は平成17年×月ころからほとんどない状態となり,控訴人は,平成19年×月には,長男と共に控訴人の実家近くのマンションに転居するなど,控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻に瀕しているとはいえる。
しかし,控訴人は,現在も婚姻関係を修復したいという真摯でそれなりの理由のある気持ちを有していること,控訴人と被控訴人は平成12年秋ごろから平成16年×月までの3年余りの期間同居しており,同居期間中少なくとも被控訴人は,控訴人に対し大きな不満を抱くこともなく円満に婚姻生活を営んでいたのである。
したがって,今後控訴人のうつ病が治癒し,あるいは控訴人の病状についての被控訴人の理解が深まれば,控訴人と被控訴人の婚姻関係が改善することも期待できるところである。以上の諸事情を考慮すれば,控訴人と被控訴人との婚姻関係は,現時点ではいまだ破綻しているとまではいえない。
3 結論
したがって,控訴人と被控訴人との間には,婚姻関係を継続し難い重大な事由があるとは認められず,被控訴人の本訴請求には理由がない。
なお,上記のとおり,本訴の離婚請求は理由がなく,これを認容することはできないから,離婚請求が認容された場合の附帯処分として財産分与の申立てをする控訴人の予備的反訴請求については,判断を要しない。
第4 結論
よって,被控訴人の控訴人に対する本訴請求は,理由がないから,これと結論を異にする原判決を取り消し,主文のとおり判決する