不倫慰謝料を親に請求されたときの対処方法
「不倫の慰謝料を親に請求されました。親が代わりに払わないといけないのでしょうか?」
といったご相談を受けるケースが稀にあります。
結論的に、法的には親には慰謝料を払う義務がありません。不倫した本人が未成年であっても同じです。親に請求されても、親自身は慰謝料を払う必要がないといえるでしょう。
今回は不倫慰謝料を親に請求された場合の対処方法をお伝えします。
相手から親に連絡されてお困りの方はぜひ参考にしてみてください。
1.親には慰謝料支払義務がない
そもそも親に慰謝料を請求されたとき、親が本人の代わりに払わねばならないのでしょうか?
答えはNOです。社会常識的にもそうかもしれませんが、請求権がないのに請求をするのは、下手をすると刑事法的には恐喝になりかねない問題もあります。
慰謝料を払うべき義務を負うのは本人のみであり、親には関係がありません。
不倫によって慰謝料が発生するのは、本人が不法行為を行ったからです。不法行為者ではない親には何の責任も発生しません。法律上、親と子どもは人格が異なるので、子どもの行為について親が責任を取る必要はないのです。
以上より、不倫慰謝料親に請求されたとしても、支払いをせずに断ると良いでしょう。世間で耳にするのは、親が立て替え払いをしてくれたということではないか、と推測されます。
2.親に慰謝料支払義務が発生するケース
ただし以下のような場合には、親にも法的に慰謝料を払うべき責任が発生します。
親が支払いを保証した
不倫慰謝料を支払う約束をするとき、親が支払いを保証するケースがあります。その場合、親には「保証人」や「連帯保証人」としての責任が発生します。
保証人や連帯保証人は、本人が支払わないときに代わりに支払いをしなければなりません。
親が保証人になるのは、典型的には不倫慰謝料を払う約束をするときに親が納得した上で「保証人」や「連帯保証人」として書面に署名押印した場合などです。
親が自ら保証人になっていないなら、勝手に保証人にされることはありません。法律上、親が当然に子どもの保証人になるわけではないので、身に覚えがないなら慰謝料支払いを断ると良いでしょう。
3.親が立て替えて支払ってもかまわない
法律上、親が子どもの代わりに慰謝料を払う必要はありません。ただし親が任意に慰謝料を立て替えるのは自由です。
子どもが高額な慰謝料を請求されて困っていたら、親としては心情的に子どもを「助けたい」と思うケースもあるでしょう。そういった状況になると、親には法的な支払義務がなくても、親が自ら不倫慰謝料を立て替えて支払うケースがあります。
これを「第三者弁済」といいます。
親による第三者弁済も法的に有効なので、親が代わりに全額の慰謝料を支払った場合には本人の慰謝料支払義務が消滅します。ただし親が払ったのが一部の慰謝料であれば、本人が残額を払う必要があります。
3-1.親が代わりに慰謝料を支払う際の注意点
親が本人の代わりに慰謝料を払う場合、以下のような点に注意しましょう。
慰謝料の示談書を交わしてから慰謝料を入金する
親が慰謝料を払う場合、必ず相手と書面を取り交わしてからにすべきです。具体的には示談書を作成してからに慰謝料を払いましょう。
書面なしにお金だけ支払うと、相手から「親からのお金は示談金として受け取ったわけではないので、別途本人に慰謝料を払ってもらわねばならない」「全額の慰謝料を受け取っていないので、後は本人に残額を請求する」などと言われてしまう可能性があります。
書類を交わさないでお金のやりとりをすると、お金だけ取られてしまい、再度、請求されたり約束を守ってもらえなかったりするケースもあり、紛争の終局的解決につながらない場合があり注意が必要です。
示談書の書き方
親が代わりに慰謝料を払う場合には、そのお金が示談金であることを明らかにする書面を作成しましょう。その際、示談書の名義人は本人とするようおすすめします。親は不倫の当事者ではないためです。慰謝料トラブルを終わらせるには、本人が支払った外形をとっておく方がわかりやすくなります。ただし、本人に無断で書類の名義を使ってはいけませんので本人の了承は得ておきましょう。
また慰謝料の全額なのか一部なのかについても明らかにしましょう。
親による立て替え払いですべての慰謝料問題を解決するには、「全額」の慰謝料を支払う内容にする必要があります。一部と受け止められる余地のある記載方法をすると、後に残額を請求される可能性があります。そういったことのないように慎重に書面を作成しましょう。
4.親への請求が脅迫罪、恐喝罪になるケース
慰謝料を請求されるとき、相手から「慰謝料を払わないと親に告げるぞ」などと言われたら相手に脅迫罪、恐喝罪が成立する可能性があります。意外に思われるかもしれませんが、世間の皆さんが武勇伝のように語っていることは、よくよく法的に検討してみると、きわどいということもありますので、刑事法への配慮が必要です。
慰謝料の支払いを伴う場合は、金品の要求が伴うので「恐喝罪」になる可能性もあるので、慎重に行うことが必要なのです。
脅迫罪は、相手を脅したときに成立する犯罪です。刑罰は2年以下の懲役または30万円以下の罰金となっています。
(脅迫)
刑法第222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。
恐喝罪は、相手を脅してお金を取り立てようとするときに成立する犯罪です。刑罰は10年以下の懲役刑です。最高裁判所の決定で、正当な債権を有していても恐喝罪は成立することには変わりがないというものがありますので、取り立ての態様が社会的相当性を逸脱していれば、犯罪になりかねないので注意が必要です。
(恐喝)
刑法第249条 人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
確かに慰謝料請求は正当な権利行使ですが、たとえ正当な権利であっても脅してお金を払わせると恐喝になります。
インターネット上の情報や、探偵が事実上同行する示談交渉では、親に連絡したり会社に連絡したりするなど、行うのが良いかのように書かれているものもあります。
しかし、弁護士が介入すると、普通に刑事告訴される可能性がありますので、十分リスクを踏まえて行動しましょう。
反対に、相手から脅迫や恐喝の被害を受けているなら、警察に被害届を出すべきです。上記のようなことを言われたら、慰謝料を払わずに早めに弁護士や警察に相談してください。
5.不倫した人が未成年の場合
不倫した本人が未成年の場合には、親が慰謝料問題に関与せざるを得ません。
未成年は単独では示談などの法律行為ができないからです。親は法定代理人となるので、子どもの代理として示談交渉を行います。
ただ未成年者が不倫関係となると、通常、不倫相手は青少年健全育成条例違反になると考えられます。青少年健全育成条例は、18歳未満の青少年との性交渉や性交類似行為を禁止しているためです。
青少年健全育成条例違反は刑事的な犯罪です。
相手に青少年健全育成条例違反が成立する場合、未成年者側が不倫慰謝料を払うかどうかよりも、相手の男性(あるいは女性)を刑事告訴したり被害届を出したりすることの方が大きな問題となるでしょう。
未成年が不倫トラブルに巻き込まれた場合、慰謝料を払うかどうかや、相手を刑事告訴するのかなどが問題となり、親の関与も避けられません。問題が複雑になるので、弁護士へ相談するようおすすめします。
6.親に不倫慰謝料を請求された場合の対処方法
親に不倫慰謝料を請求されたら、以下のように対応しましょう。
6-1.断る
親には慰謝料を払う法的な義務がありません。もしも親に慰謝料を請求されたとしても、断ると良いでしょう。はっきり断れば、相手としてもそれ以上親に慰謝料を請求しなくなるのが一般的です。
それでもしつこく親に請求してくる場合、請求方法によっては脅迫罪や恐喝罪になる可能性もあります。親への請求が執拗で迷惑している場合には、弁護士へ相談しましょう。
弁護士としては、「親は当事者ではない」ので、「訴え間違い」の訴訟と一緒という形になるかと思います。ただし、軋轢が大きくなる恐れがあるので、無視するのもよくありませんが、立て替えるつもりがない場合はその旨文書で通知し、その後も取り立てが続くようであれば警察や弁護士に相談するのが良いでしょう。
6-2.立て替え払いをお願いする
慰謝料を請求されているとき、放っておくと本人に裁判を起こされたり給料や預金などを差し押さえられたりするリスクが発生します。そういった事態を阻止するには、相手と示談してある程度の慰謝料を払わねばならないでしょう。
もしも自分でどうしても慰謝料を払えないなら、親に立て替えてもらう方法が考えられます。確かに親には支払義務がありませんが、親が任意に払うのは自由だからです。
親が納得して慰謝料を出してくれるのであれば、妥当な金額の範囲で慰謝料を支払いましょう。
6-3.減額交渉する
慰謝料を払うとしても、相手の請求額を満額払うべきとは限りません。
多くの場合、相手との交渉によって慰謝料を減額できます。示談する前に、減額交渉を行いましょう。
慰謝料の金額を減額できる可能性があるのは以下のようなケースです。
相手が相場より高額な慰謝料を請求している
不倫慰謝料の金額には相場があります。
相手が法的な相場を上回る金額の慰謝料を請求しているなら、相場までは慰謝料の金額を落とせる可能性が高いでしょう。
たとえば相場が200万円程度の事案で相手が500万円請求していたら、弁護士を挟んで一定額の適正妥当な慰謝料に抑えられる可能性が高くなります。
相手の言い値である500万円をそのまま払うと損をしてしまうので、交渉によって適切妥当な金額へと減額させるべきです。
こちらに支払い能力がない
相手の請求額が不当に高額でなくても、こちらに支払い能力がない場合には慰謝料を減額できる可能性が高くなります。
たとえば月収も少なく貯金もまったくない人にいくら慰謝料を請求しても、支払いは受けられません。裁判をしても差し押さえすらできません。
そこで相手としては、慰謝料を減額してでも払ってもらうしか方法がなくなります。
支払い能力がないことも交渉材料となる可能性があるので、資力がない場合には安易に示談に応じず減額交渉を行いましょう。
もっとも、開き直っているように受け取られると、訴訟を起こされたり、民事執行法上の財産開示手続をとられたりなど、たくさんの法的手続きを誘発する可能性もあるので、弁護士に相談して慎重に進めましょう。
弁護士にご相談いただいても、請求側があまり納得されないのは、この点です。特に不倫慰謝料の示談・裁判に限らず、日本の民事執行制度の下では、支払い能力がない者から金銭の取り立てをすることは容易ではないという実情があります。
実務上では、例えば残業代の請求などでも、会社側が「まとまった金額は手持ち現金がないので支払えない」と裁判所でいうこともあります。法人ですら支払い能力がない場合があることもありますから、個人ということになるとますます支払い能力がないということもあるということになります。
6-4.分割交渉する
慰謝料は一括払いしなければならないとは限りません。交渉によって分割払いが認められるケースもよくあります。たとえば200万円の慰謝料を払うのが難しい場合でも、5万円×40回の分割払いならできる方もいるでしょう。示談書に分割払いを認めることや分割払いの具体的な方法を書き入れて、慰謝料を分割で払っていきましょう。
なお分割払いをする場合、途中で支払えなくなると相手から裁判を起こされたり差し押さえをされたりしてトラブルになる可能性が高まります。いったん約束したら、滞納せずに最後まで慰謝料を払い切りましょう。途中で失職したなど支払いが困難となる事情が発生した場合、放置せずに相手に連絡すべきです。分割払いは、公正証書など強制執行ができるように弁護士に相談し、手続をすると良いでしょう。
7.親に慰謝料請求された場合に弁護士に依頼するメリット
親に慰謝料請求されたとき、弁護士に依頼すると以下のようなメリットがあります。
7-1.弁護士に代理人を依頼すると親に連絡されない
弁護士に慰謝料問題の代理人を依頼すると、親に連絡されずに済むメリットがあります。市井では、不倫騒動が起きると、請求側は、まず不倫をした配偶者や恋人の親に連絡する風潮があることは否定できないように思われます。
弁護士が代理人として介入する場合、慰謝料トラブルについては弁護士が窓口になるからです。
相手が「親に連絡する」という場合、先にこちらが弁護士を立てて牽制すれば、そもそも親に連絡する必要は全くなくなりますし、親に連絡されて不倫トラブルを知られるリスクを低減できます。
親に不倫問題を知られたくない方、心配をかけたくない方、親を巻き込みたくない方は早めに弁護士に代理交渉を任せると良いでしょう。
親に連絡されてしまった場合
すでに親に連絡されてしまった後でも弁護士に依頼するメリットはあります。
弁護士が対応する場合、これ以上は親に請求しないように釘を刺せるからです。
親に請求されて迷惑な場合に弁護士に依頼すると、その後の連絡はすべて弁護士にさせるようにできます。これ以上親を巻き込みたくない方も、早めに弁護士に依頼すると良いでしょう。
7-2.労力がかからない
不倫トラブルに対応するには手間がかかります。相手との示談交渉もしなければなりませんし、相手が親に請求してきたら親への説明なども必要となるでしょう。
弁護士が代理人になれば弁護士が相手と示談交渉を進めるので、本人は対応しなくて済みます。親へも請求されなくなりますし、弁護士から親へ説明して納得させることができるので、親子間のトラブルも避けやすくなります。
労力をかけずに慰謝料トラブルを解決するためにも弁護士に依頼しましょう。
7-3.慰謝料を拒否できるケースもある
不倫慰謝料を請求されても必ず払わねばならないわけではありません。
慰謝料が時効にかかっている場合や、不倫が始まったときにすでに夫婦関係が破綻していた場合などには、慰謝料の支払いを断れる可能性があります。
弁護士が介入すると、慰謝料を拒否できる事情があればはっきり拒否できるので、慰謝料を支払わなくて済む可能性があります。自己判断で慰謝料を払ってしまうよりも、経済的にも心理的にもメリットを得られるでしょう。
7-4.慰謝料を大きく減額しやすい
慰謝料にはさまざまな減額事由があります。しかし専門知識がないと、どういったケースで慰謝料が減額されるのかわかりにくいでしょう。
弁護士が代理人になると、法的な観点から慰謝料を減額できないかチェックします。
減額要因があれば漏れなく主張し、適正な額に抑えられます。慰謝料を大きく減額しやすい点も、弁護士に依頼するメリットといえるでしょう。
7-5.ストレスがかからない
不倫トラブルへ対応すると、非常に大きなストレスがかかります。弁護士に依頼すると自分で対応しなくて良いので精神的な負荷も軽減できるメリットがあります。正直、本人訴訟の場合は、裁判所も親切に対応してくれるとは限りませんし、訴訟について相談する人も限られると思います。示談交渉や訴訟は、弁護士に依頼し弁護士を相談相手にしながら進めていくと良いでしょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では不倫や離婚問題に熱心に取り組んでいます。親に慰謝料を請求された、あるいは請求されそうでお困りの場合、お気軽にご相談ください。