不倫慰謝料請求で分割払いの申出をされたときの対処方法
不倫相手に慰謝料を請求すると、「分割払いさせてほしい」と申し出られるケースが少なくありません。確かに分割払いでも払ってもらえないよりは良いといえます。
もっとも、分割払いにはさまざまなデメリットがあります。
この記事では不倫慰謝料請求で分割払いを認めるリスクや分割払いを申し出られたときの対処方法をお伝えします。
不倫慰謝料請求を行っている方、これから慰謝料請求しようとしている方はぜひ参考にしてみてください。
1.不倫慰謝料の分割払いとは
不倫慰謝料の分割払いとは、不倫慰謝料を一括ではなく何度かに分割して支払うことです。
基本的には慰謝料は一括で支払うのが原則で、訴訟になった場合には一括で支払い命令が出ます。
しかし相手によっては一括で支払う資力がないケースもあるでしょう。そのようなときには双方の合意によって分割払いを認めるケースがあります。お互いが納得していれば慰謝料の分割払いが可能となります。
実際に不倫慰謝料を請求すると、不倫相手や不倫した配偶者から「お金ないので慰謝料を分割で支払いたい」と申し出られるケースが少なくありません。そのようなときには請求者と被請求者(請求された人)が話し合わねばなりません。
1-1.慰謝料の分割払いの期間
慰謝料の分割払いの期間はどのくらいになるのでしょうか?
法的に、分割払いの期間をいつまでにすべき、などのルールはありません。
ただ分割払いの期間が長くなると、その分慰謝料が途中で払われなくなるリスクが高まります。リスクを低減するには、慰謝料はなるべく3年以内出払いきってもらうのが良いでしょう。相手が「10年の分割にしてほしい」などと言ってきた場合には受け入れるべきではありません。
個人再生の返済期間を例に長くても3年、延長しても5年程度までにすべきと考えます。
1-2.慰謝料の分割払いの月々の金額
慰謝料の分割払いを認めるとき、月々の支払額はいくらくらいにすべきなのでしょうか?
これについても、法的なルールはありません。ただしあまりに少額だと回収に時間がかかってしまいます。
相手の資力にもよりますが、月々2~3万円以上は払ってもらうよう合意するのが良いでしょう。
また、分割を始めるにあたり、頭金を支払ってもらうということも考えられます。
2.不倫慰謝料の分割払いを認めるデメリット
不倫慰謝料の分割払いを認めると、以下のようなデメリットがあります。
安易に認めるべきではありません。
2-1.分割払いの途中で相手が支払えなくなる
分割払いを認めると、途中で相手が払えなくなるリスクも高くなります。たとえば合意した当初は相手が安定した会社員であっても、支払っている途中で仕事をやめたり結婚退職したりしてしまう可能性もあるでしょう。
相手が途中で払えなくなったら、訴訟などで請求しなければならない可能性もあります。こちらに余計な手間と費用がかかってしまうデメリットは大きいといえるでしょう。
また、不法行為債権は、非免責債権とはいえ、実際、相手方に破産されると事実上、回収が困難になるといわれています。
2-2.確認や督促に手間とストレスがかかる
浮気慰謝料が分割払いされている間は、こちらが毎月きちんと入金されているか確認しなければなりません。
毎月「今月はきちんと入金されるのか」と気になってイライラしてしまう方も多いですし、実際に滞納されたら督促する必要もあります。
債権管理の手間や督促の手間がかかることやストレスが発生することも大きなデメリットといえるでしょう。
2-3.分割払いの最中は相手との関係が続いてしまう
不倫された場合「一刻も早く忘れて過去にしてしまいたい」と考える方が多いでしょう。
しかし慰謝料を分割払いにすると、過去にしてしまうのが難しくなります、
毎月相手からの入金を確認するたびに不倫トラブルを思い出してしまう方も少なくありません。
分割払いにすると、完済するまで相手との関係が続いてしまうストレス要因となるのがデメリットです。
2-4.相手が慰謝料を払わず逃げてしまうリスクがある
慰謝料の分割払いを認めると、相手が途中で払わなくなって逃げてしまうリスクもあります。
たとえばいきなり引っ越しされて電話番号も変えられ、転職されたら相手の足跡を追うのは難しくなるでしょう。
相手と音信不通になった場合、弁護士や探偵事務所などに依頼して居場所を探さねばならず、費用も労力もかかってしまいます。それでも必ず見つかるとは限りません。
不倫慰謝料の分割払いを認めると、相手に途中で逃げられるリスクがあることも承知しておくべきです。反対にいうと、大手自動車会社や大手広告代理店など、大手企業の場合は退職のリスクが低いかもしれませんので、そうした点も分割を認めるかどうかの考慮点にしたら良いかもしれません。
3.分割払いを認めざるを得ないケースとは
以上のように、不倫慰謝料の分割払いには高いリスクを伴います。基本的には分割にせず一括払いさせるべきといえるでしょう。
しかしどうしても分割払いを認めざるを得ないケースがあります。
それは相手に慰謝料を一括払いする資力がない場合です。特に、相手方に借金があるような場合、一括払いは現実的ではないでしょう。
相手に本当にお金がなければ、一括払いをいくら要求しても払うのが不可能です。その場合、請求者側が折れて分割払いを認めないと、慰謝料の支払い自体を受けられなくなってしまいます。
お金のない相手からは訴訟を起こしても回収できない
「お金のない相手からは一括で支払いを受けられない」と聞くと「訴訟になったら一括払いの支払い命令が出るのでは?」と疑問をもつ方もいるでしょう。
しかし訴訟で一括払いの支払い命令が出ても、必ず一括払いを受けられるわけではありません。相手が判決に従わない可能性があるからです。
確かに相手が判決を無視する場合、債権者側は相手の資産や給料を差し押さえられます。
ただその場合、相手の資産調査や勤務先調査は債権者が行わねばなりません。
相手に本当に資産がなく仕事もしていなかったら、判決が出てもまったく回収できない可能性があるのです。また、勤務先もグループ企業に所属していて、尾行調査だけでは、所属企業が判明しない場合もあります。
また相手の給料から一括払いを受けるのは難しいので、給料を差し押さえたとしても結局は分割払いになってしまうでしょう。
むしろ分割払いの合意をした方が、相手の方から任意に慰謝料を払いやすくなるので債権者側としても慰謝料を回収しやすくなる可能性が高いのです。
相手に本当に支払い能力がない場合には、一括払いより分割払いが適しているケースがあります。
4.お金のない相手に一括払いさせる方法
お金のない相手に一括払いさせるのは基本的に困難ですが、以下のような方法をとれば、資力のない相手にも一括払いさせられる可能性があります。
4-1.立て替え払いで慰謝料を払わせる
浮気相手本人が払えなくても、本人の親族などに資力があるケースは珍しくありません。
たとえば親に資力がある場合、親に立て替え払いをさせると良いでしょう。
相手に対し「親などに立て替え払いしてもらい、一括で支払うように」と告げて交渉すれば、一括で支払いを受けられる可能性があります。
4-2.借り入れによって慰謝料を払わせる
相手本人に資力がなくても、借り入れができるケースはよくあります。
たとえばカードローンなどでまとまった金額を借り入れさせて一括払いをさせれば、後に相手との関係を残さずスッキリ慰謝料問題を解決できます。
相手が「お金がないので支払えない」などと言ってきたら「借り入れをしてでも一括払いするように」と申し入れてみましょう。
4-3.減額して一括で払わせる
相手がどうしても慰謝料を払えず立て替えや借り入れなどもできない場合、慰謝料を減額して払わせるのも1つの方法です。
たとえばもともと300万円の慰謝料を請求していた場合に相手が「そんなお金はない」と答えたとしましょう。
その場合、慰謝料を100万円に落として解決するのです。そうすれば分割払いのリスクは避けられます。
頭金を入れさせるとリスク軽減になる
完全な一括払いにはなりませんが、慰謝料の頭金を入れさせて残りを分割払いにすると、分割払い特有のリスクを軽減できます。
少なくとも頭金に相当する額は当初に回収できますし、分割の期間も短くできるからです。
たとえば当初に300万円請求していて相手が「100万円しか払えない」と言った場合、頭金として100万円入れさせて残りの200万円は3年の分割にするなどの対応をしましょう。
5.慰謝料の分割払いを申し出られたときの対処方法
相手から慰謝料の分割払いを申し出られた場合には、すぐに受け入れるのではなく以下のように対応しましょう。
5-1.本当に資力がないのか、状況を確認する
まずは相手に本当に資力がないのか、確認すべきです。
現在の仕事の内容や給料の金額、貯金額など聞きましょう。
親に立て替えてもらったりカードローンなどで借り入れたりして対応できないかも聞いてみるべきです。
5-2.訴訟を起こす
相手がどうしても払わない場合には訴訟も検討すべきです。
ただし相手に本当にお金がなければ訴訟をしても取り立てができないので意味がありません。ある程度支払いができそうなのにあえて長期の分割払いに固執する場合などに訴訟を起こすと良いでしょう。
6.分割払いで不払いを起こさせないための工夫
相手との話し合いによって分割払いを認めた場合、万が一の不払いのリスクに対応する必要があります。
分割払いで不払いを起こさせないために工夫する方法をみてみましょう。
6-1.公正証書を作成する
示談で分割払いを認める場合、必ず合意書を公正証書にしましょう。口約束はもちろんのこと、当事者同士で作成する示談書でも対応としては足りません。
公正証書があると、相手が不払いを起こしたときにすぐに相手の給料や預金などを差し押さえられます。
相手としても、不払いを起こすといつ何時差し押さえをされるかわからないのでプレッシャーを感じ、不払いを起こしにくくなる効果もあります。
不倫慰謝料の合意書を作成する場合には、ひと手間かけても必ず公正証書にしましょう。
なお公正証書は相手方の同意がないと作成できないので、相手が消極的な場合には説得する必要があります。
6-2.相手の勤務先や預貯金口座を把握しておく
公正証書を作成しても、相手の勤務先や預金口座などがわからなかったら差し押さえはできません。相手に尋ねるなどして、勤務先や預金口座、契約している保険会社名などを把握しておきましょう。
相手が転職した場合には必ず通知する約束をさせるのも一手です。
6-3.期限の利益喪失条項を入れる
分割払いの合意書には、必ず期限の利益喪失条項を入れましょう。
期限の利益喪失条項とは、相手が一定分の支払いを滞納したら当然に分割払いができなくなって、そのときの残金を一括払いしなければならないとする条項です。
期限の利益喪失条項を入れておくと相手にプレッシャーがかかるので、不払いを予防できます。
6-4.遅延損害金の条項を入れる
示談書には、相手が支払いを遅延した場合の遅延損害金についての条項も入れておくようおすすめします。遅延損害金は、相手が支払いを遅延した日数分加算される損害賠償金です。
たとえば遅延損害金の割合を年率14.6%に設定しておいて相手が100万円を1年間滞納すると、146000万円が加算されます。
遅延損害金を設定すると相手にプレッシャーがかかりますし、万一の場合に遅延損害金も一緒に回収できるので、こちらの受ける不利益が小さくなる効果もあります。
6-5.頭金を入れさせて分割分を少なくする
相手に頭金を入れさせて分割の金額や回数を少なくしておくと、不払いによるリスクを低減できます。
まとめ
不倫慰謝料請求をする場合には、なるべく一括払いさせるべきです。どうしても分割払いを認めるなら、公正証書を作成するなどの工夫をしましょう。
名古屋駅ヒラソル法律事務所では男女トラブルの解決に力を入れて取り組んでいます。浮気相手から分割払いを主張されてお悩みの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。