婚姻破綻後の不貞行為と離婚事由

相談者からは、別居後に交際をしている女性がいる場合、有責配偶者に該当するのか、また慰謝料請求を受けたりされたりする可能性はあるのか、と聴かれることがあります。

 

この点は,明晰に答えられるのは、婚姻関係が完全に破綻した後であれば慰謝料請求などの法的責任は追わないというルールです。

 

しかし、上記のとおり「完全に破綻した」というのは評価が加わるものですから、破綻しているかどうかは不安定な概念といえます。もっとも、もっと明晰に別居し、付き合い始めたのであれば別居の理由になっていなくては良いのではないかあとの議論も出ています。ただし,同居中に交際していることが表面化している場合はかえってそれが表面化しているといえます。

 

例えば、夫の同居に伴う妻の生活環境の変化や妊娠の精神的不安定に対する配慮を欠いて、離婚請求が棄却した後、夫婦関係が回復しないまま経過し、夫が他の女性と同棲したという事案において、別居中夫は妻や子の高額な生活費の要求に応じているとして、破綻後の不貞行為の法理によって離婚を認めた例もある。

 

神戸地裁判例平成元年6月23日判例タイムズ713号255ページ

右認定の事実によれば、前記離婚訴訟の判決以後、原告と被告との別居状態はそのまま続き、原告としては、亡C及Eとの事実上の夫婦生活は、被告との婚姻生活が破綻したのちのことであって、原告がなお被告との離婚が認められていない状態のもとであったとはいえ、これをいちがいに原告の被告に対する不倫行為ときめつけるのは相当でないのであり、その後の原告と被告やAとの間にあった交流、とりわけて原・被告間の長男Aは被告がその手許で養育したものであるが、原告もその成長に留意を怠らなかったものであり、そのAもいまでは成人して大学を卒業し、就職して自らの生活を維持できるまでにいたっていること、その間原告自身は被告に対してそれ相応の生活費等を仕送ってその生計を支えてきたこと、別居の期間はすでに三三年に及び、原告の被告に対する愛情は全く喪失しているのであり、被告とてもその内実は原告との婚姻生活の回復が期待し難いものであることを認識しているといわざるをえない。原告と被告の婚姻生活は全く破綻したというべきであり、回復の余地はなく、もはやこの婚姻破綻の責任を原告にのみ負わせるのは酷である。そうすると、原・被告間には民法七七〇条一項五号にいう婚姻を継続し難い重大な理由があると認めるのが相当であり、原告の離婚の請求は理由がある。
三 次に原告は被告に対し離婚給付を申立てるので判断する。
人事訴訟手続法(以下「人訴法」という。)一五条一項は、夫婦の一方が提起する離婚の訴においては財産分与等のいわゆる附帯申立をなしうることを規定する。そして右財産分与の附帯申立は、財産分与を受け得ると主張する請求者からその相手方の出捐を余儀なくされることになる者に求めるのが通例であるが、財産分与に関する民法七六八条の規定をみると、同条は、離婚をした者の一方は相手方に対し財産分与の請求ができ、当事者間における財産分与の協議が不調・不能なときは当事者は家庭裁判所に対して右の協議に代わる処分を請求することができる旨を規定しているだけであって、右規定の文言からは、協議に代わる処分を請求する者は財産分与を請求する者に限る趣旨であるとは認められない。また、人訴法一五条一項に定める離婚訴訟に附帯してする財産分与の申立は、訴訟事件における請求の趣旨のように、分与の額及び方法を特定してすることを要するものでなく、単に抽象的に財産分与の申立をすれば足り、裁判所に対しその具体的内容の形成を要求すること、いいかえれば裁判所の形成権限の発動を求めるにすぎないのであって、通常の民事訴訟におけるような私法上の形成権ないし具体的な権利主張を意味するものではないのであるから、財産分与をする者に対してその具体的内容は挙げて裁判所の裁量に委ねる趣旨でする申立を許したとしても、財産分与を請求する側において何ら支障がないはずである。更に実質的にみても、財産分与についでの協議か不調・不能な場合には、財産分与を請求する者だけでなく、財産分与をする者のなかにも一日も早く協議を成立させて婚姻関係を清算したいと考える者のあることも当然のことであろうから、財産分与について協議か不調・不能の場合における協議に代わる処分の申立は財産分与をする者においてもこれをすることができると解するのが相当である。そこで人訴法一五条一項による財産分与の附帯申立は離婚請求をし、財産分与を出捐する者においてもすることができると解する。
 本件においても、離婚請求をし、財産分与を出捐する原告から被告に対し財産分与すると申立てるのであり、原告は、離婚に伴ない相手方配偶者の被告に経済的不利益の間題が生ずるのを慮って、本訴に附帯して問題の解決を図ろうとするにあると考えられるが、原告の申立は相当と考えるので、原告の申立の趣旨を考え併せて、本件における財産分与の相当な金額を定めることとする。
 ところで財産分与の性質・内容は、各種の要素、すなわち夫婦共同生活中の共通の財産関係の清算と、離婚を惹起した有責配偶者の離婚そのものに起因する相手方配偶者の損害の賠償と、離婚後の生活についての扶養といった内容を含むと解されている。本件についてみると、原告の資産・収入がどの程度であるか必ずしも明らかではないが、前記認定のように、原告と被告の同居期間は一年に満たず、以後長期間にわたって別居状態が続いたもので、この間原告がなにがしかの資産を形成しているにしても、被告自身がこれに寄与したとは認められないし、また今日原・被告の婚姻生活の破綻につき原告を有責ときめつけるわけにはいかないこと、原告は、被告との別居後、被告に対し、被告やAの生活費等を分担し、それ相応に誠実に対処してきたこと、原告自身老母を抱え、被告との婚姻生活破綻後に形成された家庭があること、原告と被告の年齢、生活環境等諸般の事情を考えると、原告から被告に対する財産分与の額は、原告自身の申立てる金額を斟酌し、一二〇〇万円をもって相当と考える。(なお原告は、財産分与額として、一時金のほか、原告又は被告のいずれか一方の死亡、もしくは原告が満八〇才に達するまでの間、毎月一定の金額の支払をも申し立てているが、これまで原告から被告に対し毎月の生活費等の仕送りをめぐって生じた軋轢を考え併せると、この際一時金をもって支払うのが相当である。)
 してみると、原告は被告に対し、財産分与として金一二〇〇万円を支払うべきである。
四 以上の次第で、原告の本訴請求中、被告に対する離婚の請求は理由があるから認容し、財産分与については原告から被告に一二〇〇万円を支払うこととし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

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